オレンジ社のCX戦略に思うこと

 2019.12.25  五味康一郎

PBSのキーノートスピーカーとして来日したフランスはOrange社のピエール氏と1週間同行して、プロシード社員とのワークショップやいくつかのクライアント企業様を訪問して意見交換を実施しました。企業のCXの戦略を決め、実施している人と話をするのは、COPC社の人間と話をするのとはまた違った意味でとても刺激的で、有意義な時間でした。とにかく「話したいこと」がたくさんある人で、何か質問があると、関連することを含め、すべて話さないと気が済まないという人でした。PBSに参加された方は、講演の時も、通訳をしながら「時間がない。。。」とオロオロしていた私をご覧になったことでしょう。

すでにこのウェブに掲載されているピエールとの会談と重なる部分もあるかと思いますが、ここでは、いくつかのトピックで、ピエールとの話をまとめてみます。

前提となりますが、Orange社は、モバイルと固定の両方の通信サービスやインターネット接続サービスを提供している会社で、新しく銀行サービスの提供も始めたフランスの会社です。そのサービス提供地域は、本国フランスのほか、フランス以外のヨーロッパ、フランス語圏のアフリカ諸国です。

サービスジャーニー(カスタマージャーニー)、コンタクトセンターチャネルの管理、COPC規格委員会での活動といったテーマでまとめてみます。

サービスジャーニー

Orange社ではそのお客様の体験する「ジャーニー」を以下の6つと定義しています。
吹き出しの中にある、「私は…」という書き方をされている6つです。これらの体験を店舗、デジタル、技術者派遣、コンタクトセンターの大きく分けて4つのチャネルで提供しています。これら4つのチャネルを使って提供している顧客体験についてはCES(カスタマーエフォートスコア)でお客様からの評価をもらっています。
ちなみに、この図でカバーしている領域を彼らの言葉では「CR(カスタマーリレーション)」と呼んでおり、その上位に位置付けるCXは、このCR以外に、「商品・サービスの提供価格」と「商品・サービスの提供している機能」をあわせた概念としており、その総合評価はNPSで測定しています。NPSのスコアはCS以外の要素にも大きく依存しているのでCS担当のみが担う数値ではないという考えです。

4つのチャネルは、これら6つのジャーニーを共同して良くしていく使命を持っています。どのチャネルでも各ジャーニーの一端を担うことができますが、すべてのジャーニーにおける機能をすべてのチャネルに持たせることは意味がないと言っていました。すべての機能を各チャネルにコピーして実行させるという考え方になりがちですが、チャネルごとに得意、不得意があるのでそれを考慮した設計にする必要があるということです。そのためにも、組織の体制としては、チャネルごとの担当マネージャーに顧客戦略を任せるのではなく、ジャーニーごとの担当マネージャーを置き、そのマネージャーがジャーニーごとのチャネルミックスの戦略をたてるという組織体制にしたとのことでした。チャネルごとの責任者はいるのですが、戦略の実行者という立場に変更となったそうです。

チェネルごとに部門がある縦割りの組織は、日本のみならずヨーロッパにおいても、ほとんどの企業が採用する仕組みとなっているそうですが、10年近くかけて今の体制に変更してきたと苦労話をしていました。

 

デジタルチャネルの重要性は特に高まっているとの認識をもっています。お客様のジャーニーの80%以上はデジタルチャネルで始まりデジタルチャネルで終わるという分析をしています。皆さんも、コンタクトセンターに電話をかける前に、自らウェブ経由で情報を入手することが多いと思います。実感できる数値ではないでしょうか。

コールでの対応はOrange社においても減少傾向にあり、その代わりに確実に増加しているのが、日本でのLINEのようなメッセージングサービスを使ってのやり取りです。日本以外では、WhatsAppWeChatFacebook Messengerといったアプリケーションをつかったコミュニケーションをメッセージングサービスといいますが、2025年にはオレンジ社の顧客とのコンタクトの50%以上はこのようなメッセージングサービスを使ってのコンタクトになると予想しています。Orange社では自分の会社のスマートフォンアプリにもメッセージングサービスを設け、活用を促していますが、これらのメッセージングサービスを使ってのコンタクトをなくすことはできないので、前出のものに加えて、スマートスピーカー等に対してのやりとりのインターフェイスを用意しています。

 

コンタクトセンターチャネルの管理

コンタクトセンターチャネルでのお客様との対応は、量として減少傾向にはあるものの、重要性は依然として高いものと認識されています。Orange社では、シンプルな取引から、どんどんチャットボットやボイスボットといったデジタル(セルフサービス)のチャネルに業務が移行しています。一方で、デジタルのチャネルで対応できない複雑な案件や、人のハイタッチな対応が必要となるような業務は残ります。またデジタルのチャネルのAI部分の機能を「育てる」活動も人が行う業務となっていきます。したがって、今後は、CSSの人数は減少となるが、実施する業務は格段に複雑で高度なものになると想定しています。そのような業務を実施する人は、現時点では、過去に自らの顧客応対から得た経験やスキルに基づいた仕事ができますが、今後はその準備となるような活動はすでにデジタルにとって代わられているので、どのようにしてそのようなスキルを身に着けるのか、どこから採用するのかというのはより大きな課題になるだろうと考えています。

Orange社では、コンタクトセンター業務の多くは外部に委託して運営しています。インハウスである程度のクオリティが確保できたものから外部に出すというのを正しい方法と考えているが、実際はうまくできていないものをそのまま外に委託している状態になっていると反省していました。日本でも同じような状況は時々見受けられますね。委託のパートナーとは、共同して呼量削減にも取り組んでいるとのことでした。ただしこの取り組みは、委託先にとっては売上の減少に直結しますので、「お客様一人当たりのサポート費用を固定で支払うというモデルの採用を一部で行っているようです。

コンタクトセンターの効率性向上の活動ですが、コンタクトそのものの抑制、多チャネルへのコンタクトの移行、顧客応対の効率化の3つの視点で実施しています。コンタクトの抑制については、病気のたとえで話していたのが面白かったです。コンタクトセンターにコンタクトしなければならない状態となったお客様を、病気になった人に例えての話だったのですが、病気になったのは、コンタクトセンターではなく、商品やサービスの設計をした部門、もしくは販売するときに渡す資料を作成した部門といった「上流」ある他の部門が最高の仕事をできなかったためだと考えています。それらの部門に対して自らの仕事の改善を求めていくことや、市場に出す前に、顧客コンタクト部門との共同でのレビューを行うということを地道に主張することで、本来なら不要なコンタクトを省いていく活動を行っているといっていたのが印象に残っています。その活動にはCEOに入ってもらうことで、他の部署に対しても強制力をもって改善を求めることができているとのことでした。もちろん、「院内感染」に例えられるコンタクトンセンターでの対応が良くなかったために発生する再コールの対応にはセンターが取り組んでいるのは言うまでもありません。

コンタクトセンターチャネルの効率性、コストの部分での最重要指標のひとつとしてはPTCPropensity to Call)というものを採用しているとのことでした。これは一人の顧客が1年に何回、センターにコンタクトしたかという指標で、不要なコンタクト(お客様のためにもならないもの)を削減するという活動に直結してます。またセンター運営費用については固定の予算があるのではなく、会社としての売り上げに対する比率で管理しているとのことでした。日本のセンターの多くでは、固定の予算が決めれていることが多いようですが、オペレーション費用の変動費化という視点で、しっくりきました。私が以前、勤務していた米国系の通販センターでもオペレーション費用の目標は売上対比の率でした。

COPCコミッティでの活動

ピエールとはCOPC規格委員会の場で毎年顔を合わせています。ピエールは、自社での活用、委託先のオペレーションへの適用、自社の店舗の業務への適用と、いろいろな形でCOPC規格を活用しているユーザーでもあります。そのピエールも、規格のリリース6.0の方向性の変更(コンタクトセンターの規格からCX規格への変更)については必要なものであると考え、歓迎しています。ただ、この方向への舵切りは、そんな時間的な余裕があるものではなく、COPCにとっても、顧客サービスを提供する企業にとっても迅速な対応が求められているのであるとの認識を強く持っています。私も、今回のピエールとの一連のやり取りを通じてその思いをより強くしました。

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